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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(オ)419号 判決 1977年11月08日

上告人

東洋畜産株式会社

右代表者

小澤慶之輔

右訴訟代理人

島田正純

外二名

被上告人

長田利子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人島田正純、同田中宗雄、同栗林敏夫の上告理由第一点について

当事者適格は、訴提起のときに具備されていなくても、口頭弁論終結のときに具備されていれば足りるから、本件訴を被上告人の原告適格に欠けるところのない適法な訴であると認めた原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第二点について

株式が未成年の子とその親権者を含む数人の共有に属する場合において、親権者が未成年の子を代理して商法二〇三条二項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」を指定する行為は、その者を親権者自身と指定するときであつても、利益相反行為にあたるものではない。これと同旨の原審の判断は正当であつて、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第四点について

商法三五〇条三項によつて準用される同法三七八条の規定は、株式会社がその設立後に定款を変更して株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めを設けた場合において、株式譲渡制限の文言の記載されていない旧株券を回収してその文言を記載した新株券を発行するにあたり、旧株券を提出することができない株主の保護と会社の旧株券回収・新株券発行事務の迅速な処理をはかるために、公示催告手続に比して簡便な異議催告手続を設けたものである。このような法の趣旨にかんがみると、会社に対して異議催告公告を請求することができる者は必ずしも株主名簿上の株主であることを要せず、株券提出期間の経過前に株式を譲り受けた株主もまたこれを請求することができ、その経過前の譲受けにより株式が名義書換を経ていない数人の共有に属することとなつた場合には、株主の権利を行使すべき者の指定が株券提出期間経過後にされたときであつても、その者においてこれを請求することができるものと解するのが、相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、論旨は採用することができない。

同第五点について

異議催告公告を請求する者において旧株券をその所在が不明であるとの事由により会社に提出することができない場合においては、異議催告公告手続制度の性質上、所在不明となつた理由までも主張することを要するものではないと解すべきである。本件の場合、原審の認定によれば、本件四〇〇〇株の旧株券の所在が不明であるため、被上告人はこれを上告会社に提出することができないというのであつて、右認定は原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができるのであるから、株券が所在不明となつた理由を具体的事実に基づいて確定する必要はない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第六点について

被上告人の請求する異議催告公告の新聞紙掲載を二段抜一倍ポイント活字をもつてすべきことを命じた原審の判断は、記録に照らし、被上告人の請求にそうものと解され、右二段抜一倍ポイント活字によるべきことを相当と認めた理由を具体的に判示しなくても、違法とはいえない。また、被上告人の負担べき異議催告公告費用に関し原審においてなんら主張のない本件の場合、原審がその点に関する判断を示さなかつたことは、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(高辻正己 天野武一 江里口清雄 服部高顕 環昌一)

上告代理人島田正純、同用中宗雄、同栗林敏夫の上告理由

第一点 <省略>

第二点 原審は前記のとおり上告人の、被上告人らの親子間における利益相反の主張につき全く簡単に「右権利行使者の指定は長田貴司と被控訴人(被上告人)間で利益相反行為にあたるともいえない。」云々と判示しているが、何故利益相反行為にあたらないかの理由を全く判示していない。相続による株式の準共有者の利益は常に一致するとは限らないことは論ずるまでもないことであろう。事案によつてはその管理、処分につき準共有者のそれぞれが各自の態度、立場をとり、それによつて準共有者間の利害が相反する場合が生ずることの可能性のあることはいうまでもない。このことは相続人同士である親子、その他の者の間にもあり、そしてそれが親権者と親権に服する者との間に生じることもある。従つて親権者とその親権に服する者の間に利害相反の可能性がある法律上の事柄については、民法第八二六条の規定に則り、裁判所の選任した特別代理人が親権に服する子を代理してその行為をなさなければならない。従つて本件においても被上告人を含む第一審原告らが長田留男の相続人として右故人留男の所有したという株式につき、商法第二〇三条第二項所定の権利行使者を定める行為については、被上告人の親権に服する長田貴司のために被上告人が親権者として行為することは違法であつて、よろしく同人のために選任された特別代理人によるべきでありこれを欠いた被上告人らの主張の権利行使者の指定は無効であり、延いてはその権限のない被上告人を本件訴えにおける正当なる当事者と認めた第一審並びに原審は違法の認定、即ち法律の解釈を誤り又理由も判断されない不法不当がある。

第三点 <省略>

第四点 原審は、上告人の「原告ら(被上告人並びにその余の第一審原告ら九名)は、訴外長田留男所有にかかる被告会社の株式二、〇〇〇株を相続によつて承継取得したとしても、その旨の株主名簿の名義書換手続をしていないから、右株式の取得をもつて被告に対抗することができない。」(本件第一審判決四枚目裏三被告の主張1の項に摘記)旨の主張に対し、第一審は、「ところで、被告は、原告らが訴外留男所有の株式を相続によつて承継取得したとしても、これについて株主名簿の名義書換を経ていないから、被告に対抗することができない旨主張するが、同法三五〇条三項によつて準用する同法三七八条の異議催告制度は、同法三四八条所定の株式譲渡制限がなされた場合の既発行株券(以下旧株券という)の回収及び新株券発行手続事務の迅速な処理のため、同法三五〇条一、二項に定めがなされたことに対応して旧株券を会社に提出することができない株主及び質権者が除権判決を得て株主名簿に登載されるまでもなく、簡易に新株券の交付を受け得られることを期待して定められた制度であるから、被告の前記主張は、右制度の趣旨に徴しいずれも採用することができない。」(前記判決九枚目表一行目から裏三行目までに摘示)旨判示し、原審はこの点につき「当裁判所も被控訴人の本訴請求は全部正当としてこれを認容すべきものと思料する。その理由は……(本主張に関係ない事項)……と附加するほか、原判決理由記載と同一であるからこれを引用する。したがつて原判決中、被控訴人に関する部分は正当であつて、本件控訴は理由がない。」と判示し、即ち、この点に関する上告人の上述主張に対し、第一審の判断を引用してこれを排斥した。しかし、原審並びに第一審の判断は、いずれも法の解釈、従つて法の適用を誤つたものである。即ち、商法第二〇六条第一項には「記名株式の移転は取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載するに非ざれば之を以て会社に対抗することを得ず。」と規定されている。従つて法に除外規定がない限り、総ての株式取得者は、その株式の移転により之を取得したことに基き会社に対し、名義書換を経て株主名簿に所定事項の登載を得なければ会社に対抗できないものである。しかして、株式の移転とは株主たる地位の承継を意味するものであり、これには譲渡、競売、相続包括遺贈、会社の合併等の事由が考えられる。そうして同条に所謂移転とはこれを右に挙げた事由によつてその意義を別異に解釈すべき法律上の根拠は認められないから、その場合の如何にかかわらず同一意義の下で解釈せられるべきである。従つて名義書換の必要があるのは、譲受による取得の場合に限らず、相続、包括遺贈、合併、競売その他いかなる事由によつて株式が取得された場合であるかを問わない(同旨、田中耕太郎博士著改訂会社法概論下巻(岩波版)(昭和三〇年一〇月一五日発行第一刷)三二七頁、註釈会社法(三)(有斐閣版)一四六頁、松岡誠之助解説、相続につき大審院明治四〇年五月二〇日判決、民事判決録一三輯五三五頁、同四五年四月二四日判決、同判決録一八輯四二二頁、大正七年四月八日判決、同判決録二四輯六三四頁)。なお、第一審は「商法第三五〇条で準用する同法三七八条の異議催告制度は、旧株券を会社に提出することができない株主及び質権者は株主名簿に登載されるまでもなく簡易に新株券の交付を受け得られることを期待して定められた制度であるから、被告(控訴人)の前記主張(株主名簿に記載なき旨)は、右制度の趣旨に徴し採用することができない。」旨判示するが、商法第三七八条第一項には旧株券を提出すること能わざる者あるときは、会社はその者の請求云々と規定されているが、同条を準用した同法第三五〇条第一項は、「第三四八条第一項の決議を為したるときは会社は其の旨並に一定の期間内に株券を会社に提出すべき旨……公告し且株主及株主名簿に記載ある質権者には各別に之を通知することを要す。」と規定しているのに対照して考えると、同法第三七八条第一項に規定された旧株券を提出できない者とは、原審も認めるとおり株主、質権者がこれに該当すると解すべく、しかして右法条に所謂株主なる者は右異議催告制度に関する法規において、その制度の根拠からしても又その法規自体の明文上、或いは解釈上からしても株主名簿に記載されていなくとも株主として会社に対抗できるものであるとすることはできず、この場合においてもその株主とは一般の場合と異なることなく、株主名簿に記載された株主を指すものであると解すべきである。これを本件についてみるに、訴外長田留男の死亡により同訴外人の遺産を相続した被上告人らは、いずれも同訴外人の所有したという株式につき被上告人らに名義書換をなし、上告会社の株主名簿に株主として記載されていないことは争いがない(弁論の全趣旨に徴しても争いがないことは明らかである)から、被上告人ら(訴外長田留男の承継人としての)は所註、たとえ、同訴外人が上告会社の株式を所有し、被上告人ら相続人らが相続により同訴外人の地位を承継したとしても、上告会社の株主名簿に記載されていない以上、その株式を有する株主として上告会社に対抗することができないものであるから、被上告人及びその余の第一審原告らは上告会社に対し訴外長田留男の所有したという株式につき、上告会社に対し商法第三四九条に基く株式の買取請求権を行使できないことは勿論、同法第三五〇条第三項によつて準用される同法第三七八条に規定する公告請求の権利を行使することはできないのである。なお、被上告人並びにその余の第一審原告らは、昭和四四年一月五日同訴外人の死亡により相続が開始したことは甲第五号証の一により明らかであり、上告会社が同四八年一〇月一日の臨時株主総会において上告会社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要する。との条項を設ける旨の定款変更の決議をなし、株主名簿に記載された株主長田留男に対し同年一二月一日までにその株券を提出すべき旨通知したことは当事者間に争いがないところである。かくの如く、被上告人らが相続により訴外長田留男の地位を承継してから相当長きに亘る期間があつたのであるから、仮りに相続開始当時、同訴外人名義の上告会社の株式が同人又は被上告人らの手裡にあつたとすれば勿論、その間、或いは相続の後においても譲渡その他法律上の理由によらざる株式の喪失があつたとすれば、除権判決を得る等により名義書換をして、被上告人らが株主名簿に所定事項の登載を期し得られたのに荏苒日を空しう過ごしてそれらの措置も講じなかつた事実に照らしてみても、被上告人らの如く上告会社の株主名簿に株主として登載せられていないものは、たとえ事実上の株主であるとしても、上告会社に対抗することができないものとして取り扱うも衡平を失するものとはいえまい。しかるに、原審が上告人のこの点についての主張を排斥したのは法の解釈を誤まり、延いては法(商法第二〇六条第一項)の適用を等閑に附した違法を冒したものであるから、原判決はこの点からしても破毀さるべきである。<以下省略>

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